自慢の同期

夜遅くにかかってくる旧友からの電話がよい知らせのはずもない。瞬間的に悪い予感はしたが、電話越しに聞いた旧友の第一声は上ずっていたからだろうか、少し明るい声に聞こえた。
(もしやアイツと飲んで酔っぱらってかけてきたか?)(オメデタイ話でもあったか)と自分の予感が裏切られたことにほっとした。しかし「大変だ」に続く彼の声によってその安堵は再び裏切られた。しかもそれはアイツのことだった。最初の悪い予感でもアイツがその対象とはまったく思っていなかった。予想外の話にショックは大きかった。しかし一方でどこか冷静に、これからのことを考えている自分もいた。
これはもしかしたら野性の本能なのかもしれない。自然の中での死というのは、外敵に襲われるとか、自然災害に巻き込まれるとか、そういう状況であることの方が多い。その死に接するということは、まだその脅威が自分の身の回りにもあるということであり、まずその場所を脱し、迫る危機から免れることを考えなくてはいけない。だから人は死に接すると本能的に冷静になってしまうのではないだろうか。
悲しみ、泣きながら知らせてくれる友の声を電話越しに聴きながら、そんなことも考えていたのは現実を受け止めたくなかったからだったのかもしれない。とにかくこれからのことをいろいろと相談した。
そして交流関係の広い彼を知る人たちへ手分けして連絡し、このことを伝えることとなった。まず文字にするのがなかなかできない。文字にするとその事実が実体をもってしまう。嘘であってほしいと願うわずかな望みを絶ってしまうようで辛い。より親しい人には電話で伝えることにした。しかし伝えることは伝えられることの何倍も辛かった。旧友の涙の重みをここでようやく感じることとなった。
彼は、僕とは違う形で、しかし同じだけの時間、オリエンテーリングの世界に身を置き、活躍してきた。学生時代は選手としては目立つ存在ではなかったし、学連で大きな仕事に関わっていたわけでもなく、学生時代の彼のことを知っている人はそう多くはないのかもしれない。
僕個人が彼を認識したのはいつだったか。大勢いた僕の同期、入学当初はさらに人数が多かったから新歓の頃に何かを話した覚えはあまりない。確実に彼のことを覚えているのはオリエンテーリング愛好会に入ってしばらくして、1年生みんなで先輩の部屋に集まったとき。1年生は秋の学祭で出店をやるのが恒例で、店長を誰がやるのかを決めることになった。入りたての1年坊主たち、なかなか「やります」と言い出す人がいない中、彼が一番最初に会計をやると言ったのではなかっただろうか。「あ、うまいことやりやがった」と思った覚えがある。そしてたまたま席が近く、同じ浪人組だったこともあり、色々と話し込んだ。その時の様子が僕の中にある彼との一番最初の記憶。
それ以来、学生時代には会計係をよくやることになり、そしてそつなくこなし、頼りになる同期の1人だった。縁の下の力持ち的な働きが好きだったのは確かだ。ぶっきらぼうな物言いもするが、しかし意外と面倒見がよく、後輩にも慕われた。選手としては目立たなかったかもしれないが、1年目は僕より彼の方が成績がよいことが多く、ライバルであった。1年目の山口インカレ新人クラスでは彼に負け、そのことを長い間自慢にされた。
オリエンテーリングの運営スタッフとしてお馴染みの顔になったのはいつの頃からだろう。卒業後もまもなくは、身内のイベントを楽しく手伝う程度だったように思う。同期が運営に携わったインカレ役員に加わったのが先だったか、関東学連の技術諮問委員になったのが先だったか。とにかくいつの間にか全国の同期たちと仲良くなり、上の世代にも下の世代にも交流を広げ、インカレを中心に大会運営の顔としていつも見るようになったのだっけか。
「お前の同期だと自己紹介すると若い人にまで通るから助かるよ」といつもいつも聞かせてくれた。「最近は通りが悪くなってきたぞ、若いのに負けてんだろ」と憎まれ口をたたく姿も彼らしい。僕にとって大事なレースでは、ゴールしたら大抵彼の顔があって、彼らしい短い言葉で祝福や励ましをもらいつつ記録を読み取ってもらう。そんなやり取りが僕にとって大会に出る楽しみの1つでもあった。そんな彼の姿がもうないなんてまだ信じられない。
式場に飾られていた会社の人たちと山に行ったときの写真を見て、思わず笑ってしまった。オリエンテーリングするときはコンパスもろくに持たずへろへろやってたくせに、サムコンを指につけ、地図ビニに地図を入れ、しっかりやってる姿があったからだ。サムコンなんて持ってたっけか?意外とかっこつけなとこもあったんだな。そして涙が出た。
いつだったか「自慢の同期だ」と書いて寄越してくれたこともある。たまにそういう顔に似合わないことするんだよな。なのに誰にも別れの言葉を残さないなんて。みんなには伝えたよ。いっぱい来てくれた。すごいよ、こんだけの面子が集まることなんてそうそうない。そのへんの大会なんかより大勢いたし、これが大会だったらワクワクするレベル。なんだ俺なんかよりずっと知られているじゃないか。お前こそ自慢の同期だ、尊敬してる。この言葉を伝えられなかったことを後悔する。
お別れの時間は終わったけど、まだみんな信じられない。もう会えないのは辛いよ。悲しいよ。うちにも遊びに来てくれるって言ってたじゃないか。。。冷静だったはずの心はいつの間にかなくなり、未だ心は落ち着かない。まだこの現実を受け入れるには時間がかかるのかもしれない。
それでもいつもどおりの生活は続き、どんどんと時間は過ぎていくから、前を見なくちゃいけない。がんばらなきゃね。これからも自慢の同期だと言ってもらえるように。ありがとう、たっちー。
20140823_tori
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先日、僕がオリエンエーリングを始めたときからの古い友人を亡くしました。このブログにそのことを書かなくったっていいのだけど、僕のオリエンテーリング人生において彼にはたくさん助けてもらいました。彼なしにはできなかったことも多くあります。何にも触れずに、何事もなかったかのように、これまで通り新しい話題を書くこともできないと思いました。だから彼との思い出やここ1週間であったことなどを綴らせてもらいました。まだまだ気持ちの整理もつかず、滅裂ですが(それはいつものことだろ、と彼ならつっこむだろう)お許しください。


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