sisu~フィンランドへ~ レースを終えて

20130725_koi
気づけばフィンランドから帰ってきて2週間目の終わりが見えてきており、自分のレースは3週間も前になってしまった。気持ちの整理をする意味でもブログに何か書かなきゃなぁと思いつつ、それを終えてしまうと世界選手権までのすべての過程がとうとう終わってしまうのかという寂しさも手伝って、なかなかそれをする気にもなれなかったが、とりあえず思うままに書いてみようと思う。
テクニカルなレポートやチーム全体の報告というものについてはそれぞれ然るべき場所にて然るべき方法で明らかにするので、今回はひとまず自分のことについて主に。
僕のレースはロング。ロング予選は今年の世界選手権のすべてのレースの1発目。しかも日本選手のなかでは一番最初のスタート。これは僕としては光栄なことだった。出国から1週間弱でのレースだったが、時差調整には十分な時間であったし、6月頭にワールドカップに遠征したおかげで、自分の実力を過大評価することもなく、インターナショナル・レース独特の緊張感にも飲まれることなく、よい状態でスタートを迎えることができた。テレインの様子も昨秋のトレーニングキャンプで把握していたので、直前のトレーニングはルートチョイステストに集中でき(それは疲労の軽減にも役だった)、レース中の判断基準をしっかりと持ってスタート枠に入っていった。ここまで準備できた世界選手権はしばらくなかったように思う。
フライングで少しテクニカルな話をしておくと、テレインへの慣れはもちろん、ルートチョイステストももっと前に終え、それを踏まえた上で本番に向けて国内での準備を進めていくべきである。しかし実際はトレーニングキャンプに行った人間がすべてのテレインを見てくる状況になることが多く、さらに少人数で参加するトレキャンでは行動範囲に限りがあり、そうなると、それぞれのテレイン・マップに慣れるだけで精一杯、ルートチョイステストまではなかなかできないまま終わってしまう。後でも少し触れるが、今後は秋の段階で出場種目の絞り込みもできるので、ターゲットを絞って現地のテレイン研究をすることができる。この秋、イタリアのトレキャンに行く選手はそういう視点でスケジュールを考えてみてはどうだろうか。もしトレキャンに行かない他の選手のために全てを見てきてということになるのならば、本戦に出される補助金以上の支援をトレキャンに行く選手にしてやってほしいとも思う。
さて、レースに話を戻すと、誰もが緊張する1番コントロールは良すぎず悪すぎず、よい感じで入れた。しかし2番へ向かう途中、“渡れない湿地”で表示されている湿地の際を走っていたら溺れてしまい、胸あたりまで浸かってしまった。それですっかり動揺し、2番のヤブの中のコントロールへ慌てたままアタックしてしまい、3分強のミス。5番のロングレッグでは後続のランナーにパックせず事前のポリシーに沿った自分の判断でルートチョイス。自分の力量を考えればそんなに悪いチョイスではなかったと思うが(今になって思えば湿地にトラウマができ、無意識に湿地を避けてしまったかもしれない)、途中でラインを見失ってしまい40秒弱のロス。8番の大きな湿地切りで若干右にズレてしまいヤブにはまり、仕方なく大きく右にずらすことになり、やはり40秒強のロス。
後半は大きなロスはなく、いくつかのコントロール付近で少しうろつく程度のロスをしたが、これは後で他の選手のGPSの動きを見てみると不可避だったかもしれない。いずれにしても一部のトップランナーを除いてレースの途中で他の選手を見ることはなく、予想より時間はかかっている気はしたが(時計は身につけていない)、最後まで気持ちを切らすこともなく、思い切って走り切ることができた。
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▲予選のルート(青がトップ、緑がボーダー、赤が小泉)
結果は下記の通りでトップから17分ちょっと、ボーダー(15位)まで4分半の21位。
01 Bertuks Edgars LAT 1:06:03
15 Gvozdev Pavel ISR 1:18:47 +12:44
21 Koizumi Shigeyuki JPN 1:23:21 +17:18

ブリテン(事前の要項)の情報ではトップ59分の設定であったから、そのままであればボーダーは68-9分。しかしコースプロフィールが厳しいため(距離に対して等距離が多い)、もうちょっと伸びるだろうと考え、トップ62分くらいでボーダー72-4分までチャンスがあるのではないかと思っていたが、さらにそれを大きく上回るタイムとなり、2年前のフランス並みに荒れたレースで、予選通過には千載一遇の大チャンスであった。
しかしそんな荒れた展開でも予選通過の位置につけられなかったのは、結局そこに行くための資格(qualification)を身につけられなかったからなのだ。15位のパベルが終盤大きくミスしながらも決勝へ滑り込んだことや、同じように荒れた展開の女子ミドル予選で稲毛が決勝に行けたのも、彼らにはそこに行く資格が備わっていたからなのだろうと思う。(それはリレーでの稲毛の走りを聞くにつけても納得できることである。しかし吐露させてもらえば、大会後半、コーチになった僕にとって、彼女が決勝に行ったことはもちろん嬉しいことであったが、素直に喜べない複雑な心境であった。リレーに関してもそうだったが、選手兼任コーチというのは想像以上に辛いものがあった。)
ただこれまでは「全てのミスをなくせば」、なんていう荒唐無稽な話しかできなかったのが、「ミスを半分減らせばひょっとしたら」というちょっとは現実的な話にまで持ってこられたことは、ここ数年間の努力が無駄ではなかったことの証であり、これまでの取り組みは間違っていなかったと胸を張ることもできる。すっかり遠のいていた予選通過の壁が再び見える位置まで下がってきたことに手応えも感じるし、もう一度チャンスがあれば次こそは乗り越えられるかもしれない、とも思う。
しかし、そのチャンスはもうない。
世界選手権のフォーマットは来年から変わり、ロング・ミドルのフォレスト・オリエンテーリングは決勝1本勝負となり、予選はなくなってしまう。もう一度予選通過にチャレンジしたくても、その舞台はもうないのだ。それは少し前から分かっていたことではあるが、その現実に直面すると、悔しいというよりも、虚しい、寂しい、やるせない、そんな心にぽっかり穴が開いたような気持ちになってしまう。そして今年までに間に合わなかったということは、つまり負けたんだということに気づかされる。
ところで、言い方を変えれば、夢だった決勝を走るチャンスは来年以降むしろ高まるとも言える。しかし今の日本男子の状況では、決勝を走れるのは国枠で1名のみ。若く希望に満ちあふれた選手を差し置いて自分が走ることにも抵抗はあるが、それ以上に、それで走る決勝に満足できるのか、そのために今まで以上の努力を向けることができるのか、という問いが僕の前に立ちはだかる。そしてYesとは言えない自分にも気づかされてしまう。予選を通過して決勝を走るということは、僕らの世代にとっては本当に大きな目標であり憧れであった。
今の気持ちを正直に語れば、リレーはもうちょっといい形で終えたかったし(昨年、僕が走ったリレー1走も今年並みにひどかった)、なんだかんだ言っても決勝を走ることへの憧れが完全に消え去ったわけでもない。だけど今はもうとにかく何も考えず、何もせず、ゆっくりと休み、走りたいときに走り、読みたいときに地図を読む、そんな時間がほしいと願っているし、そうしている。今は自分で決めることはせず、自然の流れに任せてしまおうと思っている。いい加減いい大人になったはずだけど、そんな決め方のほうが僕の生き方にはふさわしいと思っている。
以上です。これまで世界選手権の挑戦に対し、多くの皆さまからご支援とご声援をいただきました。あらためて御礼申し上げます。結果という形では応えることは出来ませんでしたが、別の形でいつかお返しします。これからもオリエンテーリングが大好きな気持ちだけは変わらずに。
※参考までに来年以降のロング・ミドルへの出場資格について、聞いた話をまとめておく。正確にはIOFやJOA強化委員会からの情報を確かめていただきたい。
新形式の国別出場枠は、過去2回のWOCの成績(男女別に個人+リレーの成績によるポイント合計)の順位によって決まる。3人枠は8位まで、2人枠がもらえるのは22位まで。来年はロング・ミドル共通の扱いとなっているが、いずれミドルとロングに分けて、この処理が行われる。なお23位以下だったグループの中で、上位2ヶ国に入れば翌年に9~22位グループの下位2カ国と自動的に入れ替わる。さらに個人枠として、世界チャンプだけでなく、地域チャンプも、開催の翌年に限り加えられるので(これはIOFの委員会で何度も要請して実現)、来年8月にカザフスタンで行われるアジア選手権でロングかミドルのチャンプになれば、2015年に該当種目の個人枠がもらえる。
この計算では52人以上が決勝を走れることになり、これまでの45人より増える。まずは40位台前半を目指すのが日本選手の目標になるのではないかと思われる。過去の日本人最高位は男子が76年杉山隆の26位、女子が03年塩田美佐の23位。(違っていたらごめんなさい)
ポイント計算方法については、こちらのサイト↓
http://orienteering.org/foot-orienteering/woc-in-the-future/
にある、このPDFファイル↓
http://orienteering.org/wp-content/uploads/2011/01/WOC-Qualification-Models-Proposal.pdf
の方法に基づいていると思われる。

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